消費税10%または20%の国から

オーストリアの消費税に相当する、付加価値税率は10%mないしは20%だ。5%の日本と比べるときわめて高いように思われる。

価格の10%が課税されるのは、概ね以下のものだ。

  • 食料品(酒等を除く)
  • 公共交通機関の運賃
  • 出版物
  • レストラン等で食事をした場合の食べ物(飲み物は20%)

20%の税率が適用されるのは、その他ほとんどである。意外に思われるかもしれないが、電力・ガスにも20%の税率が適用されている。

ここで問題にしたいのは、「10%」「20%」というのは率であって、絶対的な支出額を意味しているわけではないという点だ。オーストリアに限らず欧州各国に共通するのは、日本などと比べると食料品が安い点だ。もともとの物価が安いということは、10%の税率で付加価値税(消費税)支払ったとしても、税金としての支出額は小さくなる。一方で、20%の税率が課せられるものはというと、日本より割高なものが多いが、毎日買う手のものではない「贅沢な」物が多い。こういう物の付加価値税支出額はかなりに大きくなる。

たとえば私が昨日買った食料品(だいたい1週間分)に対する税額は1.61ユーロ(約180円)だ。購入合計額は16.11ユーロ(約1800円)で、10%の税率が適用されている。しかし、買った物・量と言えば、これくらいの量を日本で購入したら3500?4000円程度にはなるだろう、という程度の物・量だ。5%の消費税を3500円ないし4000円に対して払えば175円と200円だ。税額がかなり似ているのが分かる。

こんどは、1万ユーロ(あるいは110万円)の自動車を買ったと考えてみよう。自動車の付加価値税率はオーストリアでは20%だから、税額2000ユーロ(約22万円)。110万円に対して日本で発生する消費税は5万5千円だ。この場合は、圧倒的にオーストリアの税額の方が高い。

(なお個人の所得水準などはオーストリアと日本では大きな差がないと考えてよい。一人あたり国内総生産はオーストリアの方が日本と比べて1割ほど多い。また、食料品が安いのは、農産品であれば農業補助金等があるために安いのだと思われるし、販売店が低賃金労働で支えられている面もあるだろう(特にスーパー)。)

このような仕組みになっているため、一般の人が日常的に支出する税額は、税率は10%と高いといえど、絶対的な金額では日本と同程度か少々少なめだと考えられる。非日常的な買い物(と酒などの嗜好品)に対する税額は20%と高いので、こういったものに課税される付加価値税額は日本より大きくなる。後者のものを買う頻度とそれに対して払う付加価値税額は、所得が高い層の方が高いと考えられるから、ここである種の累進性ができているとも言える。

税率もそれなりに問題ではあるし、「欧米諸国よりも日本の消費税は安いから上げた方がよい」という言説も多々見かけるが、個々のものの物価までを考えて実際に人々がいくら付加価値税として支出しているかを考えているものは、私は見たり読んだりした記憶がない。ここを考えずに税率だけ議論して、税率を上げるべきだだの、いや上げないべきだだの議論をしても、あんまり意味のある議論にはならないと思われる。国家財政の歳入中の消費税の割合などを考えることも重要だろうが、個々の負担がどれくらいになるのか、という議論が日本ではすっかり忘れ去られているように思われる。もともと日常的に買う品々の物価が高く、数年に一度しか買わない品々の物価が安い日本で、前者に欧州各国と同じ税率を適用すれば、個々人の負担は欧州より大きくなるはずだ。

念のため書いておくが、上記を書いたのは、議論の観点を提起したいからであって、「消費税率を上げるべきだ」「現状維持がよい」「下げるべきだ」という類のことに関する私の考えを示唆したいためではない。他にも検討すべき観点が多々あり、その結果として税率をどうするかの結論が出されるべきだろう。

なお、オーストリアでは健康保険料なども高いが、医療費は原則として無料だ。また、教育は小中学校、高校、大学とも、公立のものは無償だ(大学は非EU加盟国籍の外国人と1年以上留年した学生は学期毎に380ユーロを収める必要があるが)。また、子ども手当に相当する “Familienbeihilfe” が、子どもが27歳の誕生日を迎えるまで親に支払われる(金額は年齢と何人目の子どもかで105.40ユーロ?202.70ユーロの間で変わる。詳細)。これらの点は付言しておく。

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