JAL騒動と「公共サービス義務」

最近はJALのいろいろをニュースで追っかけている。同じロイターでも、日本語版英文版で書いてあることの「深み」の方向性が若干異なっていて面白い。

ところで、交通政策という点から見たときに、一番あおりを食らう一つは松本空港だろう。JALの子会社のJACが唯一の乗り入れ定期航空会社で、大阪線を毎日運航し、札幌線と福岡線を曜日ごと交互に運航している。JALはこの廃止を表明しているという。それに対して長野県が受け入れられないと言っているのだそうだ。まあ、そりゃそうだろう。自分のところから飛行機が飛ばなくなったら嬉しいわけがない。(ソース1, ソース2

さて、どうすればいいのだろうか?ソース1にある、

「日本航空との合意事項に基づいて、活性化に取り組んできた。何をもって赤字なのか明らかにする必要がある」  会見した県交通政策課の小林利弘課長は語気を強めた。

というところにヒントがあるだろう。

「こんなに早く、簡単に切り捨てられるとは思わなかった」。松本商工会議所の井上保会頭は怒りをあらわにし、15日にも地元経済界などで対策会議を開くとする。

松本青年会議所の上条洋理事長は「公共交通機関という側面を検討しているのか。採算だけで判断するのは納得できない」と不満をぶちまけた。

ともある。(引用元はともに上記のソース1(中日新聞記事))

長野県ないし松本市地域にとって何が目標なのかを考えることだろう。交通政策としては、JAL(JAC)の松本空港への運航を継続することが重要なのではなくて、大阪や福岡、札幌と短時間で結ばれていることが目標のはずだ。オペレータが別にJALである必要性はない。

だったら、立ち返って、まず松本空港と大阪・福岡・札幌が結ばれていることが、どの程度社会的・経済的に地域に有益なのかを再検討してみたらいいだろう。そして、有益だと判断されれば、松本空港と大阪・福岡・札幌をむすぶ航空便の運航を行う航空会社を、一日の便数や座席数、運航頻度、赤字となった場合の補填方法などを行政が定義して、一般競争入札などで公募したらどうだろう?そして、5年間や7年間の運航契約を結び、契約更新時期になったら有益性を再検討して、再度入札をする。

実はこれは、EUが規則として定めている「公共サービス義務」というもののアイディアを拝借しただけだ。交通サービスのうち、社会的、経済的には必要であるが、採算が取れない場合には、行政が、しかるべき補填のもとに「公共サービス義務」を課すことができるのだ。行政と事業者の間には契約関係ができ(むろん書面で公式のものだ)、行政は赤字補填の、事業者は運航の義務を負う。もともとは鉄道や舟運のためのものだったのがが、航空路線にも適用される規則があり(Article 16 of the Air Services Regulation 1008/2008)、ギリシャの島嶼部やスカンジナビアの田舎、ドイツやフランスの地方部など257路線で使われている制度だ(リスト)。

すでに長いこと運航しているJAC便が一挙になくなるのが「いや」なのが心情的には分からなくもないが、JAL自体は行政機関でもなんでもないので、不採算路線を「お情け」で運航してあげるほど余裕はないだろう。ましてや数千億円規模の資金が必要で、銀行に債務放棄を要請して、さらに数千億円の未認識年金債務がある会社ができるわけがない。法的整理の必要性さえ指摘されているのだ。

こういうタイミングでこそ、社会的・経済的に必要な路線であれば、必要なサービスに対してなんらか制度的手当てをして行く必要がある、ということを認識して、議論と制度を設計していく段階にきているのではないか、と思うのだが・・・・

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